当院では日々、「四十肩でツライです」と訴え、肩が挙げられない状態でお見えになる方が多いです。そういう方に、「痛い側の腕を挙げてみてください」と言うと、痛みで肩だけの動きでは挙げられず、体全体を傾げながら腕を挙げて見せます。「腕が挙がらずお風呂で頭が洗えない」とか、「後ろに手が回しにくい」など、日常の動作でも不自由を感じる場合があります。
比較的、前方からであれば、腕を挙げのは楽な方が多いようです。これは、肩関節を覆っている「関節包(関節同士が擦れないようにしている粘液が入った袋)」が、前方から肩を挙げた方が圧迫されないからです。
一方で、この関節包が引き延ばされたり、圧迫されたり、刺激するような動きは大の苦手。下記は肩が痛む人の訴えで多いシチュエーションです。
・歩くと振動で痛い
・仰向けで寝ると痛い
・肩先が痛い
・痛い側の肩を下に寝ると痛い
・痛くて寝つけない
・寝返りをする度に痛みで起きてしまう
四十肩・五十肩は、英語ではフローズンショルダーと呼ばれています。まさに「肩が凍り付いて固まり動かせない状態」です。「どんな動作で」「どの様に」という部分を知る事で、固まっている箇所や状況を想定していきます。
・手を横から上げる時、初動から痛みが出る場合
→筋肉が原因の場合が多い(棘上筋や三角筋)
・一定の角度で痛みが出る時
→関節包やその内部のカルシウム形成など
・何もしないでも痛く、動かしても初動から痛い、眠れない
→外傷がある場合(ぶつけたり捻ったり)は骨折なども考えられる
また、必ずしも痛みのある箇所が悪いとも限りません。体幹には、腕から背中、腰にかけて、広背筋という大きな筋肉があります。これは上腕骨(腕の力こぶを作る骨の内側に付着しています。広背筋が固まることで腕は下方へ引っ張られ続けることになって、肩の関節包の拘縮を招き、肩関節の不調の原因にもなります。
上の図にあるように、広背筋はかなりの面積を占めており、肩と同時に腰痛を感じる人も多くいます。先程、例に挙げた力こぶを作る筋肉(上腕二頭筋)や二の腕の筋肉(上腕三頭筋)は、肩甲骨から上腕骨、そして肘を越えて付着をしています。肩甲骨(肩関節を形成している骨)は、肩を動かす動作でも一緒に上下左右に動きます。また、何か重たい物を手で持ったり、細かな手作業をする時には「肩甲骨を固定」して支点を作ります。これはデスクワークで肩凝りになりやすい要因でもあります。
肩関節は、肩甲骨と上腕骨とで出来上がる関節ですが、関節と言っても他の部分とは決定的な違いがあります。それは、凸凹の関係の様に、嵌まり込んだ形状の関節ではないのです。この形状により、不安定である欠点と引き換えに、実に広い可動範囲を獲得したのが肩関節。仮にこれが凸凹の関係にあったならば、我々人間は背中を掻いたり、棚の上の物を取ったり、野球の投球ができませんでした。
不安定であっても、関節はハズレると困りますので固定が必要です。その為には、多くの固定に協力する組織が必要です。靭帯や関節を包む関節包、筋肉がそれにあたります。安定を実現するためには、前後、左右、上下から、均等な張力が必要です。日常生活でこれらの張力を欠いてしまうのが筋肉の緊張です。例えば、肩関節を前に引っ張る筋肉が緊張を起こし、前方に引っ張られた場合、後ろの筋肉も同じだけそこを引っ張らなくてはバランスが取れません。この繰り返しで可動性が失われ、肩が固まってしまうのが四十肩・五十肩です。
軽度では、筋肉の緊張を緩めれば痛みは軽減しますが、それよりも進行してから自覚し始めるのが殆どです。片方に引っ張り続けたことにより、長期的に圧迫された組織が炎症を起こします。それは、内部の関節包や、腱の動きを滑らかにする「滑液包」にまで及びます。こうなると「痛くて眠れない」「肩先が冷たく感じる」「寝返りの痛みで起きてしまう」という様な症状へと移行してゆきます。関節包や滑液包は、元々が栄養循環が乏しい場所であるために、治癒までには時間を要してしまいます。
医学的には四十肩・五十肩のことを「肩関節周囲炎」と言いますが、これを「周囲」としているのは、炎症によるものではあるけれど、圧迫で炎症を起こす部位が多岐に渡るので、この様に呼ばれています。中には肩関節内に石灰沈着を起こし、関節に挟まれて激痛をともなう場合もあります。この場合には、ほんの少しの肩の動きだけでも、激しい痛みが発生して、鎮痛剤による痛みの軽減も限定的です。
いずれにしても、肩関節周辺のアンバランスから始まり、長期的に組織が圧迫され、その状態で運動をするために擦れて起こる炎症です。
下の図は、正常な肩関節の可動域です。四十肩・五十肩に限らず、肩関節に障害がある方は、この運動範囲が狭まります。勿論、厳密には個人差はありますが、肩凝りの筋肉緊張によっても、運動制限がみられることがあります。見分け方として、この運動範囲に腕を動かすと、四十肩・五十肩の場合、必ず耐えがたい痛みを伴います。